スノーボードを販売する個人的なサイトから、時価総額20兆円へ遂げたECプラットフォームShopifyを作った創業者Tobias Lütke
カナダに本拠地を置き続ける非シリコンバレーな企業として風変わりなカルチャーや、考えをしていました。でももちろん本質的で、特に4)の「成長」の章での箱についてのTobiasの思考はユニークで好きです。
ちなみにReid HoffmanとのMasters of Scaleの対談での一幕でも、「シリコンバレーに気付かれずに時間をかけてプラットフォームを構築できたことが勝ち要因の一つ」と言われ、少し異質。
ホフマン:私はTobiに、シリコンバレーで認知されなかったことが成功の一因だと言いました。
ホフマン:つまり、ブリッツスケーリングの観点から言うと、アフターバーナーを噴射するタイミングを選ばなければならないということですね。
LÜTKE:はい。
ホフマン:ブリッツスケーリングを最初からジェットコースターに乗っているような白熱したものにしなければならないと考えるのは間違いです。実行可能な戦略とは、時間をかけてビジネスの基礎を構築することです。レーダーに映らないように。
そしてこれこそが、プラットフォームとしての繁栄をShopifyに可能にしたことなのです。シリコンバレーのVCでさえもまだ理解していないものを作っていたのです。
1) 事業・プロダクト
・10年後にShopifyが最高のポジションにいるために何をすべきかを考えて、すべての決断を下している
(*前提:マーチャントに投資するShopify Capitalというアイディアについての議論で。TobiはShopifyの中立性が大切と思っていて、短期では有益だが長期では不利益になると考えている。その延長にて)
今の状況では、短期的に有益なことはたくさんあるでしょう。しかし、私は10年後にShopifyが最高のポジションにいるために何をすべきかを考えて、すべての決断を下している。
始めるのは簡単なことだ。もちろん、銀行にはお金がある。社内でもやりたくてたまらない人たちがいるのは明らかだし、率直に言って簡単にできるでしょう。しかし、それが我々のポジションを良くするとは思えない。
・Shopifyは、自分たちが世界で最も優れていると思えないことはやりたがらない
片手間でやっている私たちが、会社の主力事業としてIntuit(会計ソフト企業)が構築するよりも優れた会計ソフトになれるとは思わない。私たちのお客様は、もし私たちが会計ソフトを持っていたら、絶対に私たちから買うでしょう。しかし、それは私たちにとって長期的には良いことではないと思う。なぜなら、私たちにとって非常に重要なことへの集中力が損なわれることになるから。
・ほとんどの成功したビジネスの起源は、最終的に達成したものよりもずっと小さい
ビジネスを始めれば、投資家と話すことになるかもしれない。その際によく聞かれる質問がある。「あなたのビジネスの市場規模はどのくらいですか?」である。私はこの質問を厄介だと思っているし、実際に悪い質問だと思っている。なぜこのような質問が多いかというと、投資家が成功した企業のリストを見ると、すべての企業が大きな市場に存在していると思うからだ。しかしそれは、それらの企業の最終状態である。
ほとんどの成功したビジネスの起源は、最終的に達成したものよりもずっと小さい。よくよく考えてみると、Appleは趣味の人にチップボードを売るために作られた。私の会社であるShopifyは、オタワでスノーボードを売るために設立された。
・野心的であることは素晴らしいことだが、急ぎすぎてもいけない
偉大な企業は1年では作れない、うまくいかないのだ。シリコンバレーでは、1年か2年で10億ドル規模の企業が誕生したという話を聞くことがある。それは宝くじの当選者の話で、そこから学ぼうとしてはいけない。たまたま適切な時期に適切な場所にいた人もいる。
偉大な企業を作るには時間がかかるので、あまり早くやろうとしないほうがいい。野心的であることは素晴らしいことだが、急ぎすぎてもいけない。
・品質の判断基準は、数値でなく"これを正しいと感じるか?"
品質というのは、ある意味難しい概念だ。数値化できるものではない。これが、今日のビジネス界で品質を生み出すのが難しい理由のひとつだと思う。というのも、何でもかんでも数値化しなければならない病にかかっているからである。OKRに記載できなければ、それは存在しないことになってしまう。そのため、結局は漠然とした概念になってしまうのだ。
多くの人がこの概念を好まないのは、「品質の高い製品であるかどうかを判断するためのチェックリストをどうやって作るか?」となってしまうからだ。そうではない。使ってみて、その製品が解決しようとしている問題を理解した上で、判断するのだ。
そして、"これを正しいと感じるか?"ということである。それは見た目でもあり、感じ方でもあり、アニメーションのフレームレート、コピーライティング、イラストの精巧さ、そしてアーキテクチャに至るまで、すべての要素が含まれている。いかに早くアプリが立ち上がったか、時間をかけていかに早くアプリを改善できるか。このように、すべての要素を要件と組み合わせて判断するのだ。
2) 人材採用
・その人の人生のストーリーをよく調べる
私たちは時間をかけて、一般的な採用方法とは明らかに異なる、独自の採用方法を見つけた。それは人々の人生のストーリーをよく調べるという方法だ。
人々に自分自身の物語を語ってもらえば、物事がうまくいかなかった時を見つけることができ、その時にどう反応したか?何をしたのか?次の瞬間、そしてその後、その人がしたことは一体何だったのか? を知ることができ、そこには私たちが探している2つの要素が含まれているからだ。
1つは、Shopifyで成功する人は、普段から同じような目標に向かって別の道を探すような考え方をしている人たちであるということ。それは成功と高い相関関係がある。もう1つは、あまり業界インサイダーの専門家を採用しない傾向にあるということである。
・業界の専門家よりも可能性のある人材を雇ってトレーニングする
私たちはあまり業界インサイダーの専門家を採用しない傾向にある。傾向としては、将来性のある人材を多く採用している。大学を卒業したばかりの人が多い。当社の面接では、ペイメント業界で何年働いたかなどではなく、将来性を見極めるようにしている。(*ただ、これはそのような人材がShopifyの居るカナダには少なかったということと、雇うお金がなかったという事情もある)
そのため、社内でのトレーニングに頼らざるを得なくなった。Shopifyにはタレント・アクセラレーション・チームと呼ばれるチームがある。このチームを利用して、従業員が当初考えていたよりもはるかに早く、自分のキャリアの中で本当に価値のあるポイントに到達できるように支援している。
3) 組織・カルチャー
・予測可能性からカルチャーの価値観を維持することではなく、新しい現実にいかに早く適応するかということ
問題は、自分たちが持っているカルチャーの価値観を維持することに集中してしまうことで、それは実際には非常に難しいことだ。Shopifyのような会社では、それぞれの段階でチームやビジネスに必要なもの、異なる価値観、異なる種類のものが求められる。だからこそ、そのことを意識してコントロールしようとせずに、良い文化が育つような環境を作ることが大切なのだ。
既存の考えにとらわれず、何か新しいものをもたらすことができる人を探し、その人が本来の自分を発揮できるようにすること。このようにして、すべてが大きく変化するこの時代に私は会社を作る方法を見つけ出した。
私たちが心がけてきたことの1つは、外界の大きな変化から会社の内部を守るということではない。多くの企業は、荒波の中にいないかのように装い、すべてが昨日と同じであるかのようにして、予測可能性を重視する非常に安定した社内文化を構築する必要があると思う。しかし、私たちが当初から大切にしているのは予測可能性などではない。大切にしているのは、新しい現実にいかに早く適応するかということである。
・変化に対応するために、四半期に1週間勉強期間を設けている
私は勉強週間と称して、四半期のうち1週間だけ家を空けて、まったく新しい技術に没頭し、時には機械学習のモデルを自分で書いたりする。そうすることで、他の週とは全く違う1週間を過ごし、初心者から始めてうまくいけばそのテーマを少しでも理解して持って帰り、それが会社をより良くする可能性があるからだ。
・私の大前提は、すべての会社が悪いということである。唯一できることは、少しでも悪いところが少ない会社を作ること
私は、インセンティブシステムについて考えることが多い。本当に重要な人、考慮すべき人が同じテーブルの側にいる誰もお互いに交渉していない会社を作りたいと思っている。
面白いことに、人々は一般的に顧客層と大きく対立する企業を設計する。そして顧客を獲得するために、ゴルフに連れて行って企業契約を結ばせるようなゲームをする。でも、それは私がやっているゲームとは違う。
私の大前提は、すべての会社が悪いということである。唯一できることは、少しでも悪いところが少ない会社を作ること。
人生の目標は、今Shopifyで良くない思いをしている仲間を少しでも減らすことだ。
4) 成長について
・会社が私に求めていることの少し先を行くようにしている
私は、会社が私に求めていることの少し先を行くようにしている。なぜなら、自分がビジネスのボトルネックになりたくないからだ。私はオタク的な側面を持っていて、本好きでもあり、伝記などを読んで勉強することが多い。
興味深い出来事を見つけては、それについてたくさんの本を読み、さまざまな人から学ぶことが好きだからだ。こうした習慣は、何が起こったかではなく、解決しなければならない問題は何か、なぜそのように解決したのかを再構築する方法だと考えている。
会社を作るということは、そういうことなのだ。問題が何であるかを理解し、良い選択をする能力を向上させるのである。そのために、過去の事例や最も価値のある技術、それを見事に成し遂げた人を見つけ、研究している。
・自分の考えや野心をどのように押し殺しているのか。この特別な箱から抜け出すためにはどうすればいいのか?
今の自分の箱は何だろう、自分の世界は何だろうといつも考えている。今の自分の箱はどのように自分を縛っているのか、自分の考えや野心をどのように押し殺しているのか。この特別な箱から抜け出すためにはどうすればいいのか?
基本的に人生とは、箱の中に入り、その箱が何でできているのかを見て、それを探り、分析し、物事がどのように機能するのかを見て、理解し、親しみを覚えるという興味深い一連の流れである。これはいいところで、そこに到達するたびに心地よくなっていく。
しかし、自分が考えている世界とは相容れないことを学ぶかもしれない。それが、この世界に亀裂を入れ、出口を見つけて次の箱に入ることになる。そして、このプロセスを何度も何度も繰り返すのだ。
ほとんどの人は、この自己成長サイクルが存在することを理解しているが、多くの時間をかけて考えることはない。彼らにとっては、それが自動的に起こるように思えるのだ。私が言いたいのは、これに非常に積極的に取り組むということである。自分が入っている箱の布地に空いている穴を積極的に探して、それを壊して次の箱にたどり着こうとするのだ。
こうして箱を渡り歩くための最良の方法のひとつは、すでに大きな箱に入っている人たちと一緒に過ごすことである。しかし、これはある程度までしか有効ではない。というのも、これに専念していると、すぐに大きな箱を持った人たちの領域から離れてしまうから。この時点で、継続するための最良の方法は、このような自己成長サイクル(箱から箱への旅)に積極的に取り組む人々のグループと会社を作ることだ。一人が何かを見つけ出し、他のみんなが次の箱への出口を見つけるのを助けることができるのだ。
・ビジネスを構成するすべてのもの-すべての人、すべての雇用、すべての目標、すべての野心。それは、箱の総和
イーロン・マスクは、今、地球上で最も大きな箱を持っている人でしょう。自分の箱があんなに大きいと、やっていることが突拍子もない、まるで魔法のように思えてくる。
あなたは箱から箱へ、箱から箱へ、そしてより大きな箱へ。周りの人たちと一緒にやり、さらに一緒にやる人を探します。そして、一緒にとんでもないものを作ることができるのだ。
これは美しいことだと思うし、「どうしてある人は素晴らしい会社を作ることができるのか」という、このひどく複雑なテーマの第一原則だと思う。会社とは、それを作っている人たちの能力が現在の形で現れたものに過ぎない。経営者だけではなく、ビジネス全体のことである。ビジネスを構成するすべてのもの-すべての人、すべての雇用、すべての目標、すべての野心。それは、箱の総和だ。
5) トラストバッテリー
人々は信頼というものを、ほとんどオン/オフのようなものとして考えているが、それは実際にはグラデーションのあるものだ。
トラストバッテリーは、世界全体について忠実に表している人と人との関係を考えるためのメンタルモデルである。人はすぐに「私を信頼していないのか!」と言いたがる。しかし、実際には「いや、私はあなたをあるレベルまでは信頼しているが、あなたはもっと信用してほしい、全く違うレベルの信頼を望んでいる」というものである。
例えば、会社に新しい同僚が入ってきたとき、2人の間のトラストバッテリーは、最初は50%程度だったとする。その後、新しい同僚があなたの信頼を得られるような行動をするたびに、そのレベルは上がり、失望させるとトラストバッテリーのレベルは下がる。トラストバッテリーを満タンにするには時間がかかるが、消耗するには時間はかからない。私たちは人と接するたびに、無意識のうちにその人のトラストバッテリーのレベルを考えており、そのレベルが人への対応に影響を与えているのだ。
トラストバッテリーは、こうした信頼度について考え、可視化するためのメタファーである。チームで仕事をする上で重要なのは、一緒に仕事をしながらコミュニケーションする方法や、お互いにフィードバックを与える方法である。Shopify社では、評価のときに信頼性について個人的な感覚になりすぎないように可視化して話すために、この方法が有効であると考えた。
6) 非シリコンバレーでグローバルなスタートアップをやることについて
・非シリコンバレーの利点の一つは在職期間の長さ
誰かを雇う場合、それは完全に異なる。シリコンバレーには、驚くほど急成長しているエンタープライズソフトウェア会社の友人がいるが、彼らの研究開発チームの平均在職期間は18か月だ。その理由は、同じ建物の誰かが小惑星を採掘しようとしているビジネスを構築しているからである。隣で小惑星を採掘しているのにエンタープライズソフトウェアに集中し続けるのは難しい。シリコンバレー以外であればそれが起きないので、5年, 10年のスパンで一緒に働くことができる。
・二次都市が成功しない理由の一つは、難しいからではなく、常に矛盾した情報を得ているために混乱しているから
はっきりさせておきたいのは、二次都市(非シリコンバレー)で会社を作ることと一次都市(シリコンバレー)で会社を作ることは全く違うということだ。書店では、ビジネス書のコーナーを2つ設けるべきではないかと思うほどだ。というのも、二次都市ではシリコンバレーに向けられたアドバイスとは、ほとんど逆のことをしたくなるからだ。
二次都市が成功しない理由の一つは、難しいからではなく、こうした常に矛盾した情報を得ているために混乱しているからなのだ。
だから、最初から意識していたこととして、「これは、私たちがいる場所や私たちが知っている地域にも当てはまるのか?」と聞いた情報をほとんど分けて考えていた。それが役に立っている。
・二次都市の企業に対してかなり強気
私は今のところ、二次都市の企業に対してかなり強気だ。自分たちが二次都市であることを自覚し、それに基づいて行動している企業は、実際に成功を収めることができると思うのだ。というのも、シリコンバレーはかなり気が散る場所だからである。
さいごに
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